町田その子さんの「52ヘルツのクジラたち」が2021年本屋大賞を受賞しました!
私も「今年の本屋大賞はこれだ!」と思っていました。
「52ヘルツのクジラたち」は厳しい現実を見せつけながらも、本当に深くて優しい物語でした。
著者の町田その子さんの思いが詰まっています。
今回は2021年本屋大賞に輝いた「52ヘルツのクジラたち」のあらすじと内容、ネタバレ、結末そして書評を紹介します。
町田その子さんについては、こちらをご覧ください。
本屋大賞2022候補作になった「星を掬う」については、こちらをどうぞ。
「52ヘルツのクジラたち」のあらすじと内容
まず、「52ヘルツのクジラたち」のあらすじと内容を見ていきましょう。
あらすじ
主人公、貴瑚はずっと母親から虐待を受け、義父が病気になり寝たきりになってからは、その介護を一人でしなくてはいけませんでした。
介護している義父からも罵倒され、心も体もぼろぼろになっていたある日、高校時代の友達、美晴と再会し、美晴の同僚の男性「アンさん」と出会います。
アンさんは貴瑚のことを本気で心配し、貴瑚を家族から引き離してくれました。
そして貴瑚は亡くなった祖母が暮らしていた大分県の海辺の町にやってくるのです。
貴瑚はそこで、母親に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年と出会います。
少年は中1くらいの年齢でしたが、幼い頃の母親の虐待がきっかけでしゃべることができませんでした。
貴瑚は自分と同じ匂いのする少年を放っておくことができず、少年が安心できる場所を見つけるまでは共にいようと決心するのでした。
貴瑚は少年に言います。
わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ。
内容
「52ヘルツのクジラたち」の内容は、児童虐待の具体的な描写、それを受け続けた子供たちの心理、でも彼らが出会うことにより、互いの声を聴いて互いを支え、再生していくものになっています。
親からの虐待で、もう誰も信じない、頼らない、そんな子供達がこの日本に何人もいるのでしょうね。
でも誰か一人が、そんな子供の声にならない声を聴くことができたら、その子には希望が訪れるのだと、「52ヘルツのクジラたち」は伝えてくれているようです。
また、この小説の中には性的少数者のことや恋人からのDVなどの内容も含まれていて、深く考えさせられます。
「52ヘルツのクジラたち」のネタバレについて
次に「52ヘルツのクジラたち」のネタバレについてお伝えします。
52ヘルツのクジラとは
52ヘルツのクジラとは、他の鯨の呼び声とは全く違う高い周波数で鳴くために、その声はどのクジラにも届かず「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれています。
52ヘルツのクジラは1989年に発見され、今も生きていて毎年発見されるそうです。
貴瑚は52ヘルツのクジラのことを知り、これは自分のことだと思います。
わたしの声は、誰にも届かない52ヘルツの声だったんだ。
そして自分と同じような経験を持つ少年のことを「52」と呼ぶことにしました。
貴瑚と少年、52ヘルツのクジラが2頭、いいえ世の中には自分の声を誰にも届けることのできない人がもっとたくさんいるから「52ヘルツのクジラたち」というタイトルなんでしょうね。
アンさんのこと
アンさんは初めて会った時から、本気で貴瑚を大事にしてくれました。
アンさんがいたから、貴瑚は家族に縛り付けられ生きる意味を失いかけていた生活から解放されたのです。
でも貴瑚は、アンさんのことを男女の愛の対象としては見ていませんでした。
しかしアンさんは貴瑚が自分に告白してくれることを待っていたのです。
なぜなのか・・・。
アンさんについてのこれ以上のことはここでは触れません。
ぜひご自分で「52ヘルツのクジラたち」を読んでください。
ただ、自分を救ってくれたアンさんも実は52ヘルツのクジラだったのだと、貴瑚は知ります。
なぜ貴瑚は誰にも告げずに海辺の町へ来たのか
それはアンさん、そして貴瑚が恋仲になった主税のことと深く関係しています。
貴瑚には「自分が二人をこんな風にしてしまった、そんな自分を殺したい」という気持ちがあったのです。
具体的なことは・・・お読みください。
「52ヘルツのクジラたち」の結末は?
「52ヘルツのクジラたち」の結末は優しさに溢れています。
「ずっと一緒に生きていく」と約束した少年とは2年間離れないといけなくなりましたが、貴瑚は、遠くにいてもその存在を感じて生きていける、それに自分の声を聴いてくれる群れがいる、もう孤独ではないと思うことができました。
貴瑚は少年に言います。
あんたのことを考えて、あんたのことで怒って、泣いて、そしたら死んだと思っていた何かが、ゆっくりと息を吹き返してたんだ。わたしはあんたを救おうとしてたんじゃない。あんたと関わることで、救われてたんだ
最後は、著者、町田その子さんの願いのこもった、本当に優しいことばで終わります。
「52ヘルツのクジラたち」の書評も紹介!
それでは、「52ヘルツのクジラたち」を読んだ方達の書評をいくつか紹介したいと思います。
この物語は耳を澄ましても届くことの叶わない、悲痛な声に溢れている。それは目を背けて本を閉じてしまいたくなるくらいに辛い読書体験だった。 けれど、その綴られてきた幾つもの滂沱の涙は、どこまでも果てしなく続く広大な海に繋がり、渇いた涙の跡を大いなる愛で充たしてくれた。
きっとこの作品は、ずっと忘れられない物語になると確信させてくれる。
文教堂 商品本部 青柳 将人
引用元http://www.bunkyodo.co.jp/recommend/bookreview/825.html
(前略)アンさんとは何者なのか。なぜ今はそばにいないのか。貴瑚はどういう経緯で刺されたのか。すべての謎が解けたとき、あまりにも悲痛な愛の形が浮き彫りになる。
貴瑚は大きな喪失を体験した。しかし、52の声を懸命に受け取ることによって新しい人生を切り拓く。愛を注ぎ、注がれる関係は、まずお互いの話を聴くことからはじまると教えてくれる一冊だ。
石井千湖(書評家)
引用元 https://www.bookbang.jp/review/article/627036
知らずに読んだほうが絶対にいい。ここに書くことが出来るのは、人間の弱さと悪意が、周囲をかくも簡単に傷つけてしまうということと、それでも希望を捨てなければ、救いは必ず現れるということだ。その残酷さと希望を、作者は鮮やかに描いている。
北上次郎
引用元http://www.webdoku.jp/mettakuta/kitagami_jiro/20200721081159.html
「52ヘルツのクジラたち」の舞台は?
小説「52ヘルツのクジラたち」の主な舞台は九州、大分県の海辺の小さな町です。
主人公、貴瑚は東京で暮らしていましたが、誰も知り合いのいないところを求めて、昔祖母が住んでいたこの町にやって来ました。
少年52と出会い、彼が以前に暮らしていた福岡県北九州市に行くことになります。
北九州市は著者の町田その子さんの出身地です。
それで、北九州市の小倉駅周辺の様子をとても具体的に描写しておられます。
大分に戻った貴瑚と少年は、その後、大分の別府にいる少年の祖母を訪ねます。
少年は未成年なので、2年間は別府の祖母のもとで暮らすことになりましたが、その後はきっと貴瑚のところに戻ってくるのでしょう。
この物語が続くなら、その舞台は、ずっと大分の海辺の小さな町ということになるのだろうと思います。