皆
さん、こんにちは。
第159回芥川賞には高橋弘希さんの「送り火」が選ばれました。
高橋弘希さんは今回で4回目の芥川賞候補でした。
高橋さんって、ほんとに独特な飄々とした雰囲気を漂わせておられますね。
でも高橋さんの文章は非常に美しく繊細です。
今回受賞した「送り火」はその美しく繊細な情景描写と、それとは一見似つかわしくない猟奇的なシーンが印象的です。
それでは今回は第159回芥川賞作品「送り火」について紹介したいと思います。
作者の高橋弘希さんについてはこちらをどうぞ。
また前回の芥川賞作品とその作者についてはこちらからどうぞ。
「送り火」のあらすじや内容について
それではまず、「送り火」のあらすじや内容についてまとめてみます。
主人公の歩は父親の転勤に伴って、東京から津軽地方の山里に引っ越し、そこの中学校に転校してきます。
歩はこの春から中学3年生。
転校した中学校の3年生は全員で12人。男子は歩を入れて6人になります。
この中学校は来春廃校になることが決まっていました。
歩は何度も転校の経験があるので、今回も上手に新しい級友達に溶け込むことができました。
しかし、少年達は放課後に不気味な遊びをしていたのです。
花札を使って「燕雀」というゲームをし、負けた子がその遊びというかいじめの的になります。
遊びの内容はサバイバルナイフを店から盗む、硫酸を自分の腕にかけるなど、およそ、「遊び」とは言えない危険なものでした。
リーダー格の晃が花札を配るのですが、いつも必ず気弱な稔が負けます。
歩は晃がイカサマをして、稔を負けさせていることに気づきました。
ある日、晃は「彼岸様」という遊びをやろうと言い出し、皆の表情は曇ります。
今回も稔が負け、稔は炎天下の下、屈伸運動をさせられたあげくに、ビニール縄で首を絞められるのです。
夏休みに入ったある日、歩は晃からカラオケに誘われます。
しかし、歩が待ち合わせの場所に行ってみると、そこには同級生とともに中学校の卒業生もいました。
そして「マストン」という”遊び”が強行されるのです。
またもや燕雀に負けた稔は的になります。
稔は両手を後ろ手に縛られ、玉乗りをさせられます。
玉から落ち、地面に叩き付けられた稔は、卒業生にフォークのような形の農具で尻を刺され、何度も玉乗りを強要させられます。
この小説の内容は、静かな山里の風景描写、近くに住む老婆、優しくて穏やかな父母のいる平和な家庭、そしてそこからは全く想像ができない少年達の異常な行動、それから山里の祭りや言い伝えなどから構成されています。
田舎の、平和そうだけど強い因習に縛られている雰囲気と少年達の一見素朴そうで、裏では狂気に支配されている姿が印象的な内容になっています。
また少年特有の冷酷さも感じます。
不思議なのは、この小説に出てくる西洋風の食べ物です。
こんなに日本的な田舎なのに、老婆が作るお菓子はマシュマロだったり、カスタードクリームが入っているおやきだったり。
歩の母親が紅茶のシフォンケーキを作るのは分かるとして、なぜ作者の高橋弘希さんは、この土地の老婆に西洋風のお菓子を作らせたのでしょうか?
このことがますますこの作品をアンバランスな内容に仕上げているような気がします。
ネタバレが気になる!
次にネタバレが気になりますよね。
一体、この小説の結末はどのようになるのかとドキドキしながら読み進めていったのですが、全く予想しなかった結末を迎えます。
結末というか、「えっ、これで終わり?」と私にとっては不完全燃焼で本を閉じなければいけませんでした。
「マストン」の狂気の遊びが続く中、死にものぐるいの稔は密かに持っていた食肉裁断用の刃物を卒業生に向けるのです。
稔の家は精肉店なのですが、稔は身の危険を察して家から刃物を持ち出して来ていたのですね。
晃はそれを見て恐れおののき、その場から逃げ出します。
歩も逃げようとしたその時、稔に掴まってしまいます。
何度も地べたに顔を打ち付け、目が腫れ上がってよく見えていない稔に、歩は「僕は晃じゃない!」と叫びますが、稔は「最初っからおめえが一番ムカついてた。」と言います。
そして歩は手と脚を斬りつけられてしまいます。
歩は傷ついた体で山中を駆けながら、なぜ自分が標的にされないといけないのかと思います。
歩は転落した川面で人影を見ます。
そこには三体の巨大な藁人形が置かれ、一つの影が藁人形の頭部に火をつけます。
歩は「習わしに違いないが、灯籠流しではなく、三人のうちの最初の一人の人間を、手始めに焼き殺しているようにしか見えない。」と思うのでした。
感想も紹介
それでは、「送り火」を読んだ方々の感想を紹介したいと思います。
・文体やことば使いが純文学らしい作品。描写が驚くほどに美しく繊細。
・風景描写やストーリーの展開がうまい。
・猟奇的シーンが多く、衝撃的だった。
・健康的な景色の中で、猟奇的な暴力と残虐に向かい、自らを破壊していく少年達の姿が印象的だった。
・細部にわたって巧みに構成されていてすごかった。
・ホラー小説を読んでいるような緊張感があり、先が気になって頁をめくる手が止まらなかった。
・描写が過激で自分の好みではない。
・歩の冷静な観察眼を通して、自分もいつの間にか晃や稔に対するイメージを作り上げていた。しかし、最後のシーンでそのイメージが叩き壊された。他者を理解していると思い込むことの恐ろしさを知らせてくれた。
・幼稚で理不尽で残虐的だったあの頃を思い出しながら読んだ。
まとめ
今回は第159回芥川賞に輝いた高橋弘希さんの「送り火」についてまとめてみました。
純文学に触れながら、ホラー小説に足を入れたような不思議な作品でした。
今、書店では出版直後から売り切れになり、いつ入荷するか分からないということですが、皆さんもぜひ手に取って、この作品を読んでみてください。