くどうれいんさんの「氷柱の声(つららのこえ)」は第165回芥川賞候補に選ばれました。
高校生の時に東日本大震災を経験したくどうれいんさんが、高校生から大人になっていく10年間の軌跡を伊智花という主人公を通して綴ったものです。
今回は、第165回芥川賞候補になった、くどうれいんさんの「氷柱の声」のあらすじと内容、ネタバレ、そして感想についてお伝えします。
著者、くどうれいんさんについては、こちらをご覧ください。
「氷柱の声」のあらすじと内容
まず、「氷柱の声」のあらすじと内容について見ていきましょう。
主人公、伊智花(いちか)は、東日本大震災が発生した時、盛岡の高校2年生でした。
伊智花は美術部に所属していて、高校時代最後の絵画コンクールに向けて、大きな滝の絵を描いていました。
そして、2011年3月11日、あの大震災が起こります。
それから10年間、伊智花が震災のことを心に秘め、いろんな人との出会いや経験から、言えないと思っていたことを言葉に出すことができるようになる過程が描かれています。
「氷柱の声」は以下のような見出しがついています。
その見出しは、その年に起きた大事なことを象徴した言葉です。
Zabon(2016)
スズランテープ(2016)
エスカレーター(2016)
石巻(2017)
春の海(2019)
鴨しゃぶ(2020年)
黒板(2021年)
桜(2021年)
「氷柱の声」のネタバレは?
「氷柱の声」のネタバレについても考えてみましょう。
くどうれいんさんは盛岡の高校生だった時に東日本大震災に遭いました。
それで、主人公、伊智花はくどうれいんさんご自身の経験をもとに作ってある、くどうれいんさんの分身のようなものだと思います。
大震災の被災者ではあるけれど、身内を失うような決定的な被害は受けなかった・・・東北には、そのような人がたくさんおられて、「自分はたいしたことなかったから」という遠慮や「傷ついていない」と思い込もうとしたり。
そんな若者がたくさんいるのですね。
くどうれいんさんは、「氷柱の声」について、このように語っておられます。
自分自身と震災との向き合い方についても小説を書きながら考えた。書き上げて感じたのは、「私、こんなにしゃべりたかったんだ」ということ。自分の震災の話をしたかったんだなと。それは作品の長さにも表れている。こういう人に読んでほしい、届いてほしいという作品ではない。「私たちは、この物語に出てくる同世代の人はあの時、こう思っていました。こういう体験をしました。皆さんは、どうでしたか?」という投げ掛け。
引用元 https://morioka.keizai.biz/headline/3262/
震災を経験した若者達は皆、このような思いを抱えて大人になったのでしょうね。
本文中のこれらの言葉が、被災した多くの若者を代弁しているようです。
ずっと、だれなのかわからないだれかの目を気にして、傷付かなければいけない、傷付かなかった分、社会に貢献できる人間でなければいけないってがんばってた。
このままみんなが自分の経験を「もっと大変だった人もいるから自分に話せる資格はない」とか言って黙っているうちに、語るって言う語るって言う一番たいへんな仕事を、結局震災の時一番つらかった人たちにお願いしちゃうってことでしょ。
「氷柱の声」の感想も紹介
「氷柱の声」を読んだ方達の感想も以下に紹介します。
今まで、心に深く傷を覆った方に対して、自分は背負うことができる自信がないからどうすればいいか分からなかったです。もちろん、今でも分からないことには変わらないですが、この作品を読んでなんとなく、溶けた気がしました。
芥川賞候補作。今回の候補作の中では、いちばん素直に書かれているように思えた。東日本大震災の被害者としての若者たちが、一括りの物語に集約されてしまうことを拒否し、自らの生き方を獲得しようとする。
東日本大震災被災者のある本音が語られる。あの当時、マスコミだけではなくSNSでも流れてくる「絆」「感動」に違和感をもっていて、でも被災していない身では批判も反感もできないでいた。絵画コンクールで「絵」よりも「プロフィールや前向きなタイトルが評価対象となるなど、ほんと現実にありそう。
中学生がpixivに書いた小説のようなたどたどしさを感じた。仕事がうまくいって先輩と肩組んでガッツポーズとか、古いタイプのドラマの見過ぎでは。コロナ前提なのにラストが抱き合うシーンなのも設定破綻な感じがする。
あの未曾有の大災害をもたらせた東北の震災が起こった日から、私たちの心にこびりついた表現できない想いを代弁してくれたような物語でした。被災してないこちら側という立場ができ、語ることすらおこがましい雰囲気を感じながら生きてきた岩手に住む友人の当時の苦しみを思い出す。
中には否定的な意見もありましたが、多くの人が「氷柱の声」を読んで、くどうれいんさんの思いを感じることができたようです。